業績好調企業が経営指標(KPI)を変更する訳


JTとOLCの経営指標の変更を読む

業績好調企業年度決算発表シーズンの到来です。決算発表は言わば過去の企業活動の報告です。大幅な上方修正や下方修正がある場合、企業は事前に公に開示するため、過去の決算発表自体に特段のサプライズがあることは、ほとんどありません。

一方で投資家やアナリストが強く関心を寄せるのは、2014年度はどういった戦略に基づいてどういった数値計画を見込むのか、そして中長期的な成長ストーリーはどうあるのかです。そうした戦略や成長ストーリーは、具体的な目標とする数値(KPI)とともに語る必要があります。

そうした中から、今日は業績好調でありながら(業績好調であるからこそ!)経営指標を変更した企業を2社採り上げてみることにしましょう。日本たばこ産業(JT)とオリエンタルランド(OLC)です。

 

EBITDAから営業利益に経営指標を変更するJT

JTは4月25日に行った2013年度決算説明会の場で、「利益指標をEBITDAから調整後営業利益に変更」としています。共に制度会計の決め事によって計算される指標ではありません。そこでJTが定義する両者の計算式を見てみることにしましょう。

調整後営業利益 = 営業利益 + 買収に伴い⽣じた無形資産に係る償却費

+ 調整項⽬(収益及び費⽤)*

*調整項(収益及び費⽤) = のれんの減損損失 ± リストラクチャリング収益及び費

 

調整後EBITDA = 営業利益+有形固定資産の減価償却費+無形資産の償却費±調整項目(収

益及び費用)*

*調整項目(収益及び費用) =のれんの減損損失 ± リストラクチャリング収益及び費用等

 

少々分かりにくいですが、

JTが新たに採用する調整後営業利益: 買収の影響による無形資産の償却費のみを営業利益に足し戻している

従来の調整後EBITDA: (買収のみならず)JTに発生するすべての有形・無形資産の償却費を営業利益に足し戻している

というのが違いです。新たな指標は設備投資などの毎年発生する償却費は営業利益の計算過程で差し引かれ、企業買収という特殊要因による償却費のみを足し戻すことで、JTのより恒常的なCF動向をとらえた指標と読むことができます。

JT自身は変更の狙いについて、①事業投資及びそのリターンをより適切に管理する、②競合他社との⽐較をより容易にする、という2点を挙げています。

成熟・縮小するたばこ市場にあっては、M&Aという派手な動向もある一方で、設備の統合・閉鎖も盛んに進められています。M&Aのシナジーはきちんと生み出せているのか、より効率的な生産活動へのシフトは実行できているのか等を評価するには、JTが定義する「調整後営業利益」の方が適正な指標ということができます。 

参照:日本たばこ産業(JT)投資家情報サイト 

 

FCFから営業CFに経営指標を変更するOLC

こちらも業績絶好調のOLC、4月28日の決算発表と同時に、「2016中期経営計画」を発表しました。これまでの中計ではフリー・キャッシュフロー(FCF)を経営指標としていたOLCですが、本中計では、「営業キャッシュ・フロー 3年間で2,800億円以上」と経営指標の変更を行いました。

OLCはFCFと営業CFの違いを理解するうえで、非常に分かりやすい企業です。ディズニーシーやイクスピアリを建設していた2001年度までは、OLCのFCFは大赤字でした。また、ディズニーランドホテルやシルクドソレイユを建設していた2007年度までの数年度のFCFも低迷しています。要は攻めの巨額の先行投資をする企業のFCFは低迷するのです。

OLCが2013年度に終了した中期計画でFCFを大幅に上回って目標達成(3年間合計の投資目標1,200億円⇒実績1,947億円<62%増>)したのは、もちろんOLCの魅力あるコンテンツの集客力が最大の要因ですが、もう1つは単に大きな投資を行っていないからです。このことから、FCFを経営指標に掲げる目標は、ある意味成長ストーリーに困惑している企業と取れなくもありません。

そんなOLCがこの度営業CFを経営指標に変更しました。FCF=営業CF‐投資CFなので、FCF⇒営業CFへの目標変更は、額面通りとらえれば、「これからはガンガン投資しますよ」というメッセージでもあります。事実、OLCは「テーマパーク事業への投資規模 2014~2023年度合計 5,000億円レベル」としています。年当たり500億円ということですが、2013年度のOLCの減価償却費360億円と比較しても1.4倍の規模感です。パーク以外の多角化事業への投資も考えれば、OLCにとっても一歩踏み込んだ投資規模と言って良いでしょう

 参照:オリエンタルランド(OLC)投資家情報サイト

 

経営指標(KPI)は変更OK、恣意性OK

世の中が変わり、顧客が変わり、そして企業の戦略も変わります。それに合わせて経営指標もダイナミックに変更していくことが大切だということを、2つの事例は教えてくれるものです。

同時にJTが「調整後~~~」などと、一見すると恣意性の強い指標を自社で作成しているように見受けますが、これもまったくOKです。日本企業の経営指標を見ていると、意外と決算書から忠実に計算する指標を経営指標とする企業が目立ちます。

ところが海外の企業では、自らの企業活動の成否を測定するうえで、最適と考える経営指標を大胆に自社で作成し、これを謳っていきます。

大切なことは企業・事業の戦略と経営指標が合致しているかであって、経営指標が誰でも計算できる分かりやすいものであるかではありません。後はしっかりと、その経営指標の意義を社内外に説明すること、そして浸透させるためにも、常に言語として活用し続けることが重要なのです。

そうした点からも、今後の両社の決算発表では、JTは調整後営業利益、OLCは営業CFの言語としての使われ方に着目し、それが目標通りに推移しているかを見守っていくことにしていきましょう。

 

 


著者

大津 広一

株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント

早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授
多摩大学大学院ビジネススクール客員教授
慶應義塾大学理工学部管理工学科非常勤講師