コーポレート・ファイナンスのFAQは書籍で学べる普遍的なもの


 

先月、ある企業様からの依頼により、遠隔地に分散する受講者の方々を対象として、オンラインでコーポレート・ファイナンス(企業財務)を指導する機会がありました。

そこでは、オンラインであっても、受講者がつまずきやすいところや、疑問として感じる箇所は、リアルな教室で行う場合とやはり一緒なのだなと感じる良い機会となりました。

そんな経験から、改めてファイナンスを効果的に学ぶためのFAQについて記事を執筆しました。

 

 

コーポレート・ファイナンスがあまり身近でない背景

 

コーポレート・ファイナンスと言うと、その意義や内容を十分理解していない方も時折見られます。

一方でビジネススクールではアカウンティングと並ぶ必須科目として、確立された分野であるのも事実です。

 

ファイナンスが今一つ身近でない背景として、

  1. DCF、NPV、IRR、WACC、CAPMなど、横文字の難解なことばが多く、分かりにくい
  2. 実務では設備投資の意思決定は回収年数で評価するなど、必ずしもファイナンス理論が密に使われているわけでもない
  3. 経営企画や財務部門など、その道のプロの方が企業には存在しており、いざとなればそうした人に聞けばよい

といったことがあるのかもしれません。

 

 

コーポレート・ファイナンスは、企業価値を高めるための意思決定のアプローチ

 

私が企業内研修でファイナンスを指導する機会に、研修冒頭に必ず問いかける質問があります。

 

大津

「未だかつて、将来のCFを割り引くという作業をしたことのある方?」

大津

「自分の周りの誰かが、そうした計算を行っている資料を見たことのある方?」

 

パブリックな場での突然の問いかけなので、それほど大きな反応にはなりませんが、それでも必ず何人かの手が上がるのが昨今の景色です。

そして続けて問いかけます。

 

大津

「どのような機会に計算しましたか?」

 

受講者A

「設備投資の評価をIRRで行っています。」

受講者B

「研究者なんですが、新規事業の評価は、NPVで行うことになっています。」

受講者C

「定期的に行うグループ会社の評価で使用しています。」

受講者D

「海外企業のM&Aの評価の際に目にしました。」

 

中にはこんな答えもあります。

 

受講者E

「顧客が弊社のサービスを導入した際に、どれだけコストメリットがあるのか。そのコストメリットのNPVを計算して、弊社のサービスの価値をアピールしています。」

 

営業担当者の受講者Eも立派ですが、そうした提案書を理解できるクライアント企業も立派ですね。

受講者A~受講者E。内容は、設備投資、グループ会社、M&A、顧客提案とマチマチですが、共通点は何でしょう?

 そうです。将来に発生するメリット(=CF)を計算して、その現在価値を求め、そして何より大切なことは、意思決定を行うために計算しているということです。

 

 

どんな部門にあっても、ファイナンスは必須スキル

 

受講者A~受講者Eはそれぞれ、製造、研究、グループ会社評価、M&A、営業と、職責は異なっています。それでも共通して、仕事の中でファイナンス理論を用いて評価や意思決定をしたことがあるというのです。

このように、コーポレート・ファイナンスは、決して経営企画や財務部門の方だけの領域ではありません。むしろ最前線の現場にて、顧客、機械、プロジェクト、買収候補企業に直面しているすべてのビジネス・パーソンにとって、不可欠なスキルなのです。

 

 

FAQは書籍で触れ、そしてリアルな教室ではディスカッションを

 

冒頭に、先月のオンラインでのファイナンス教育の機会を紹介しました。

顧客企業が金融業界のしかも選抜された優秀な方々だったためでしょう。

それほど支障なく順調に進行しましたが、実際は難解なファイナンスをすべてオンラインで学ぶのは容易なことではありません。

 

私の考えは、

基本的な理論、計算演習、そしてそれに伴うFAQは
ある程度オンラインや書籍で事前に学ぶ

フォローアップとしてのリアルな教室の場で、理論の振り返り、
踏み込んだ計算演習を行い、その他の多くの時間は、
定性分析を伴う意思決定のツールとしてファイナンスを活用していく

というプロセスが、もっとも効果的なファイナンス学習だと考えています。

 

 

コーポレート・ファイナンスのFAQは、書籍で学べる普遍的なもの

 

事前の学習でファイナンスの初学者が必ずつまずくポイント。

これらを拙著「ビジネススクールで身につける ファイナンスと事業数値化力」(日経ビジネス人文庫)にて、31のFAQとして答えと一緒に紹介しています。

今回のオンライン教育でも、受講者から投げかけられた多くの質問は、これら31のFAQでカバーされているものでした。

そんな誰もがつまずくと分かっている内容を、つまずくまで待っているのは、時間とお金の無駄です(これもファイナンスのNPVで考えれば自明のこと)。

 

31のFAQの中でも特につまずきやすいものを、記してみましょう。

すべてズバッと答えられれば、あなたは実際のケースや事例を前にして、とことんファイナンスを使いこなす準備ができています。

もちろん、ファイナンスが実際の仕事をしてくれるわけではありません。

決して「ファイナンス・バカ」にならないように、どうやって実務で活用してくのかという視点で取り組んでいきましょう!

 

  • (3)「デフレだったら、今日より明日のお金の方が価値がありませんか?」
  • (4)「割引率が5%とは、いまの日本で高過ぎませんか?」
  • (5)「なぜ利益ではなく、キャッシュフローを割り引くのですか?」
  • (6)「ファイナンスもアカウンティングと同じくらい大事なのに、なぜ普段扱う数値のほとんどはアカウンティングなのですか?」
  • (9)「NPV法があるのに、なぜうちの会社は回収期間法なのですか? キャッシュフローを割り引くなんて、そんなこと実際に企業はやっているんですか?」
  • (10)「先ほどの設問では6年目でキャッシュフローを止めていますが、7年目以降はどうなってしまったんですか?」
  • (11)「IRRは高いほうがよいのですか、低いほうがよいのですか?」
  • (12)「NPV法とIRR法って、向き、不向きはあるのですか?」
  • (13)「NPVは、P/L上の予測利益ではなく予測キャッシュフローの現在価値だというのに、予測FCFのスタートは、なぜP/Lの売上や営業利益なのですか?」
  • (15)「会社から支払利息は流出するのでフリーではないはずなのに、なぜフリー・キャッシュフローの式からは引かないのですか?」
  • (17)「実際に支払うであろう税金と、FCFはズレませんか?」
  • (18)「金融収益はFCFの計算に入れないのですか?」
  • (19)「利益に減価償却を足すとキャッシュになるというのが、どうもしっくり来ないのですが?」
  • (25)「ターミナルバリューなんて、本当に算入して計算するんですか?」
  • (26)「でもやっぱり、いやなことがリスクであって、よいことはリスクではないですよね?」
  • (28)「投資家からは簿価に計上された資金しか受け取っていないのに、どうして時価ベースで加重平均するのですか?」
  • (30)「だったら、ひたすら借金したほうが株主はハッピーになりませんか?」
  • (31)「上場企業なら時価総額が株主価値だし、借金の額もすぐ分かるから、DCF法なんて使わなくても、2つの足し算で企業価値は簡単に計算できませんか?」

 

<参考書籍>

「ビジネススクールで身につける ファイナンスと事業数値化力」
(大津広一著・日経ビジネス人文庫)

ファイナンスと事業数値化力
>>> この本をAmazon.co.jpで購入する

 

 


著者

大津 広一

株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント

早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授
多摩大学大学院ビジネススクール客員教授
慶應義塾大学理工学部管理工学科非常勤講師