損益分岐点比率~売上がいくら減ったら、貴社は赤字になりますか?~


リスクとリターンとの関係性、ストックとフローの違い、利益とキャッシュフローは別物である背景、変動費と固定費のマネジメント。。。

こうした用語や考え方は、会計や財務の世界では、基礎中の基礎で学習することです。しかし、企業にしても家計にしても、新型コロナウィルスがもたらした危機に直面してはじめて、意外と実践できていなかったことに気づかされることも少なくないでしょう。

わたしがいつも頭に置いている言葉のひとつに、

Wish for the Best, but Prepare for the Worst.

 「ベストを望め、ただし最悪に備えろ。」

というものがあります。こうした危機に瀕した時に、果たして最悪への備えができていたかどうか。その真価が問われます。

「お宅の会社や事業は、売上が何%減ったら赤字になりますか?」

「売上が3分の1になったら、どれくらい赤字になるんですか?」

これらは私が時おり、社会人学生に対して投げかける質問です。もし自分の会社や事業について、これら質問に10秒で答えられないとなると、事業責任者であれば失格です。これらの質問は取締役会や経営会議でいつ飛んできてもおかしくない質問です。即答が求められる会議の場で、電卓やエクセルを使ってじっくりと計算するような猶予はありません。そもそも事業責任者として、売上と利益のセンシティビティが理解できていないのは、由由しき事態と言えるでしょう。

コロナ危機に直面して、ここ最近でも新聞・雑誌記事には、これと似たようなタイトルの記事が散見されます。

  • 「新型コロナ 減収1カ月で営業益2割減」(日本経済新聞 3月29日)
  • 「鉄道、固定費負担重く JR東、3割減収で営業益ゼロ試算」(日本経済新聞 4月21日)
  • 「イオン、よくて「営業利益半減」の衝撃シナリオ」(東洋経済オンライン 4月22日)

ニトリは毎年22の経営指標(KPI)を掲げてその結果について報告していますが、そのうちの一つに、「損益分岐点売上高比率80%未満」というのがあります。

損益分岐点売上高比率

よって、「損益分岐点売上高比率80%未満」とは、「売上が2割以上減収した場合には、営業利益ゼロになってしまう構造にしておきたい」ということを表しています。言い換えれば、急に売上高が2割減ることはないだろう、という意思表明です。2020年2月期のニトリの同比率の実績値は65.8%なので、「売上高が34.2%減らない限り赤字にはならない」という卓越した利益構造を保持しているのが実態です。

では、「売上が3分の1になったら、どれくらい赤字になるんですか?」は、どう考えておけば良いでしょうか。売上が3分の1になるということは、即ち限界利益(売上高−変動費)も3分の1になるということ。3分の2の売上、つまり67%の減収と限界利益の減益なのだから、

限界利益× 67(%)down = (失う)営業利益 です。

もし売上が100億円あって、限界利益率が30%の事業であれば限界利益は30億円、その67%が失われる営業利益なので、30億円×67%と簡単に頭の中で計算して、「約20億の利益が消失します」と即答すれば良いのです。固定費の削減によって黒字を保つには、20億円の固定費削減が必要です。

 

最後に、先の日経新聞の記事にある「減収1カ月で営業益2割減」に触れておきましょう。1カ月=12分の1年=約8%なので、「売上が8%減ると、営業利益は20%減る」ことを意味しています。売上の減少(つまり限界利益の減少)に対して営業利益が減少する倍率は、20÷8=2.5倍です。これを簡易に計算してくれる公式に、

Operating Leverage

というものがあります。

限界利益と営業利益の関係性は業種や企業によってマチマチです。たとえば限界利益率が30%の企業であれば、30%÷2.5倍=営業利益率は12%ということになります。限界利益率が50%の企業であれば、50%÷2.5倍=営業利益率20%、限界利益率が10%しかないような企業であれば、10%÷2.5倍=営業利益率4%です。

限界利益率30%、営業利益率12%

限界利益率50%、営業利益率20%

限界利益率10%、営業利益率4%

これらはすべて、「減収1カ月で営業益2割減」となることは一緒です。業種や戦略次第であって、どちらが良い、悪いの判断はできませんが、日経新聞の記事に従えば、これらが現在の日本企業の平均的な姿だと言っているわけです。

 

さあ、ご自分の企業や事業に問いかけてみてください。

「お宅の会社や事業は、売上が何%減ったら赤字になりますか?」

「売上が3分の1になったら、どれくらい赤字になるんですか?」

10秒で答えることができますか?


著者

大津 広一

株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント

早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授
多摩大学大学院ビジネススクール客員教授
慶應義塾大学理工学部管理工学科非常勤講師