ヤフー


第1回目では製造業の代表としてトヨタ自動車、第2回目は小売業の代表としてイトーヨーカ堂を見てきました。第3回目は、サービス業です。サービス業と一言でいっても様々なサービスがありますが、今回はインターネットサービス業の代表として、ヤフー株式会社の連結決算書を見ていくことにしましょう。

例によって、ヤフーについて皆さんが持っているイメージ、そしてそのイメージが具体的にどのような姿で決算書に現れているか、想像してみてください。

  • ヤフーの売上って、そもそも何でしょう?そもそも何で利益を稼いでいる会社でしょうか?少なくとも多くのユーザーの私たちは、直接ヤフーに対して料金を払っていません。例えば、テレビと同じメディア媒体だとすれば、まずは広告収入が思い当たります。それからオークションサイトの手数料収入だとか、会員向けの一部有料サービスもあります。Yahoo!BB事業に加入している方は、会員費を支払っています。
  • では、それらを合算した売上高の規模はどれ位でしょう?トヨタ自動車は16兆5千億円(2004年3月期)、イトーヨーカ堂は3兆6千億円(2005年2月期)でした。ヤフーの売上高の規模は、数兆円? 数千億円? 数百万円? 
  • 一方、ヤフーの主な費用は何でしょうか?製造業では製造コスト、小売業では商品仕入れコストなどがすぐに思い浮かぶのに対して、ヤフーの主要なコストは想像しにくい気がします。それでも国内随一の訪問客の多いwebサイトを運営している会社です。人だとか、サーバーの減価償却費だとか、或いはメディアの広告枠を販売してもらう代理店への手数料などが思い浮かんできます。
  • ヤフーといえば高い成長を続けているイメージがあります。決算書から「成長」はどのように読み取ることが出来るのでしょうか?
  • トヨタのPLは、「20%の粗利→10%の営業利益(又は経常利益)→税金4割支払って純利益6%台」であったけれど、ヤフーはどうでしょうか?たとえば、粗利を算出するための売上原価がぱっと思いつかないので、かなり粗利益率は高いはず?
  • イトーヨーカ堂は小売業なので基本は現金商売。よって、売掛金や受取手形はほとんどありませんでした。ヤフーの顧客は広告主(代理店経由を含めて)など法人が中心であるため、逆に多くの売掛金を抱えているはず? 一方、工場や実店舗を抱えているわけではないので、有形固定資産や長期差入保証金などはほとんどないはず?
  • そういえば、ヤフーは創業以来初となる配当を、この2005年3月期決算から行うと言う新聞記事を目にしました。そもそも今までもかなり儲かっていたはずなのに、なぜ配当していなかったのでしょうか?実施する配当の規模はどれくらいでしょう?

では、ヤフーの2005年3月期の連結損益計算書(PL)と連結貸借対照表(BS)を見てみましょう。

■連結損益計算書と連結貸借対照表

ヤフー 損益計算書と貸借対照表
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 損益計算書(PL)

1.  ヤフーの2005年3月期の売上高は1,177億円です。1996年1月の創業以来、初の1,000億円台に売上高を乗せた記念すべき年度でした。さすがにトヨタ自動車の16兆5千億円(2004年3月期)、イトーヨーカ堂の3兆6千億円(2005年2月期)とは比較できる規模にはありません。

2.  しかし、各費用の使い方と、そこから計算される各利益の水準を見ると、だいぶ様子が異なってきます。まず、売上高総利益率が92.4%あり、販管費で41.3%を使っても、売上高営業利益率で50%超の水準にあります。税金を約4割払って、純利益率で実に31%という、国内でも随一を誇るPLの収益性を示しています。特に営業利益の600億円という水準は、イトーヨーカ堂のスーパー事業の営業利益であった78億円の8倍近くに達する驚異的な水準です。

3.  主だった販管費の項目を順に並べると、人件費(8.1%)、業務委託費(5.5%)、販売手数料(4.1%)、減価償却費(3.8%)、通信費(3.5%)、ロイヤルティ(2.9%)となっています。ロイヤルティは米国Yahoo!社に対するものです。

4.  「成長」を見るためには、単年度ではなく過年度との比較が必要です。売上高は前年度の757億円と比較すると、55.4%の成長です。それに対して、営業利益は46.0%成長に止まっています。つまり売上以上に販管費の増加が多かったわけです。売上がこれだけの成長を示す中、費用がそれ以上に伸びていることは、裏を返せば先行投資の現れであり、今後のインターネット市場に対する当社経営のポジティブな姿勢と言えるでしょう。

5.  イトーヨーカ堂と同様に、事業セグメント毎のPLを見ておきましょう。トヨタ自動車の自動車事業やイトーヨーカ堂のコンビニ事業と比べると、ヤフーの場合、ひとつの突出した事業があるというより、4つの事業(リスティング、オークション、Yahoo!BB、全社共通)が売上高、営業利益共に二ケタ台での全社に占める構成比率で貢献を果たしていることが分かります。また、この4つの事業の売上高営業利益率はすべて60%、或いはそれを大きく上回るような非常に高い水準にあります。ヤフーが事業セグメントを詳細に分割して表記していることにも起因しますが、バランスの取れた事業多角化に成功していると言えます。

  • リスティング事業:「キーワード検索」「カテゴリ検索」等の検索サービス、「Yahoo!リクナビ」「Yahoo!自動車」等の情報掲載サービス、「Yahoo!地図情報」「Yahoo!電話帳」等の地域情報サービス
  • オークション事業:オークションサイトの運営
  • Yahoo!BB事業:ブロードバンド関連総合サービス
  • メディア事業:「Yahoo!ニュース」「「Yahoo!ファイナンス」等の情報提供サービス、「Yahoo!ムービー」等のエンターテインメントサービス、「Yahoo!掲示板」等のコミュニティーサービス
  • ショッピング事業:オンラインショッピングサイトの運営
  • ビジネスソリューション(BS)事業:インターネットを利用した調査「Yahoo!リサーチ」、ドメイン・ホスティングサービス等
  • 全社共通事業:Yahoo!JAPANトップページ等への広告掲載売上、「Yahoo!プレミアム」の売上等

 

貸借対照表(BS)

1.  バランスシートの総資産合計は1,302億円あり、これは売上高の1,177億円を上回っています。インターネットサービス事業であるため、有形固定資産などの資産はほとんど保有しないのでは・・、と想定されることからすると、違和感すら覚えます。ヤフーの資産で最も多い金額を見ると、現金及び預金の689億円であり、言わば総資産の過半数は手元流動性であることが分かります。その理由はバランスシートの調達サイドを見ることによって、利益剰余金の834億円、つまり過去の利益の蓄積が、手元に現預金として残っていることであると判明します。

2.  こうしたことから、ヤフーは本2005年3月決算より、創業以来初となる配当を始める予定です(最終的には株主総会で承認後)。これは、今後の人やサーバーなどの内部投資やM&Aだけでは、それだけの手元現預金は必要ないというひとつの宣言とも取れます。昨今の株主重視の動向を踏まえた、当社の財務戦略の変化とも言えるでしょう。

3.  売掛金の182億円は、年間売上高1,177億円の約57日分に相当します。あくまで平均値ベースですが、ヤフーの売上代金受取サイトの基準がおおよそ2ヶ月後であることが分かります。これは広告代理店を初めとして主な顧客が法人であることや、Yahoo!BB会員などの個人会員からの収入も、基本的に各月利用後の後払いとなることからして、妥当な水準と言えるでしょう。

4.  有形固定資産に建物や土地がほとんど存在しない一方、工具器具備品(サーバーやPC等)が多いこと、事業投資を行っていることから連結調整勘定や投資有価証券などのM&A関係の勘定が多いことも、当社の事業を表す特徴と言えるでしょう。

5.  投資有価証券の139億円は、総資産の10%超です。当社の競合が積極的なM&Aを行っていることと比較すると、意外と少ないとも感じさせる水準です。これには、M&Aは親会社のソフトバンクが中心となって行っていること、ヤフーの投資先には金額の大きいものがないことなどが理由として挙げられます。ただし、2005年第1四半期に、あおぞら信託銀行株式取得のために120-130億円、バリューコマース(株)の株式取得のために109億円を、それぞれ使用する予定です。ヤフーの来年度のバランスシートには若干の変化が現われるでしょう。

 

【今後の注目】

2004年10月に1日当りのサイトアクセス数が10億ページビューを超えたヤフーですが、今や単なるインターネット事業体の国内トップというだけではなく、日本を代表する優良企業のひとつとなりました。株式時価総額は2005年5月20日現在、国内14位の3兆3千億円超にあります。同レベルのランキング他企業の売上が数兆円レベル、純利益も1~数千億円レベルにあることからすると、売上1,000億円台、純利益365億円のヤフーに対する市場の期待がいかに高いかが伺えます。

「ネット広告市場が予想以上の速さで拡大している」と語るヤフーの井上社長ですが、2005年3月期に見られた先行投資費用の増加、M&Aに伴う今後の償却負担、さらには配当開始に見られる株主還元と、多くの新たなイシューに対する手綱さばきが同時に求められています。潤沢な手元キャッシュと事業からのキャッシュフローを保有する当社ですが、今後も株式市場にとっても魅力的な企業であり続けるためにどのような決算書を作り上げていくのか、注目していきましょう。 

 

 

シリーズ 財務諸表から見える企業

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