シャープ


第6回目は、液晶事業の成功で躍進著しいシャープを見ていきます。

シャープといえば液晶と言うくらい、液晶への先行投資の成功と、これによってもたらされた自社製品を主体とする高利益率が想定されます。一方、景気は順調に回復しているものの、未だ価格競争に歯止めがかからないほどの過当競争に陥っているのがデジタル家電業界です。デジタル家電の勝ち組と言われるシャープの財務諸表は、こうした追い風と向かい風の環境下、どのような状況にあるのでしょうか。

例によって、シャープのイメージを言葉にすることから始めてみます。

  • これまで見た製造業の売上高総利益率は、トヨタ自動車が18.5%(金融事業を除く)、花王が56.8%です。製造に伴う原材料や製造工程の複雑さを考えると、おそらくこの2社の間にシャープの売上高総利益率はあるのでは?
  • 同じく2社の販管費を思い起こすと、トヨタが売上高の10.2%であったのに対して、花王は43.8%。花王の販管費を占めるものは、広告宣伝費(9.0%)、給料手当・賞与(7.3%)、荷造発送費(5.4%)、研究開発費(4.2%)、拡売費及び販促費(3.9%)であったことからすると、シャープも類似の項目が並んでいるはず? とすれば、花王並みの販管費の項目と売上高比率が現れる?それでも、多くの製造業が目標として掲げる売上高営業利益率10%は、勝ち組のシャープであれば、余裕を持って達成しているはず?
  • シャープの財務体質が悪いと言うことは特に聞かない。であれば、株主資本比率は高く、有利子負債は少なく、健全な財務体質を保有しているはず? その結果として、営業利益が経常利益を十分に上回っている?
  • シャープが保有している資産を想定すれば、まずは商流から発生する、売上債権や棚卸資産。また三重工場や亀山工場を初めとする自社工場を多数所有していて、かつ現在積極的に投資している姿が見えてくるはず? それでも、潤沢な利益の一部は、手元の現預金や、投資有価証券として保有しているはず?
  • 積極的に投資している時期なので、配当や自己株式取得といった、いわゆる株主還元は押さえ気味になっているのだろうか?

では、シャープの2005年3月期の連結損益計算書(PL)と連結貸借対照表(BS)を見てみましょう。 

■連結損益計算書と連結貸借対照表

シャープ 損益計算書と貸借対照表
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損益計算書(PL)

1.シャープの売上高総利益率は22.8%です。これは、松下電器産業の29.1%や、電気機器業界の平均値である27%台と比較しても、低い値です。シャープの事業構成は、売上高の約6割を占めるエレクトロニクス機器と、同4割を占める電子部品から成っています。自社製品による高い利益率が謳われているシャープですが、デジタル家電のデフレの波は、エレクトロニクス機器、電子部品の双方に影響を与えています。シャープの液晶テレビや液晶パネルが他社の競合商品に比べて総利益率が高いのは事実ですが、電気機器業界が営む、他のあらゆる事業の総利益率と比べると、シャープが主力とする事業は、必ずしも総利益率の高い事業ではないことが分かります。

2.  一方、一極集中であるが故のメリットは、販管費における効率化です。売上高比で16.9%に抑えた販管費は、従業員給料及び諸手当(4.5%)、広告宣伝費(2.0%)などが主な勘定となっています。シャープの研究開発費は、一般管理費と当期製造費用の合計で1,481億円(売上高比で5.8%)に達しています。これらを受けて、売上高営業利益率は5.9%となっています。松下電器の同比率3.5%も上回り、総合電機大手10社の中で、唯一同比率で5%を越えているのがシャープです。2005年9月22日に発表されたソニーの中期経営方針で、ソニーが2007年度の目標としているのが連結営業利益率5%(エレクトロニクス4%)です。この水準と比べても、シャープの利益率が業界でいかに優れているかが分かります。シャープの営業利益は1,500億円を超え、二年連続の最高益を記録しました。これは、NECの1,311億円、ソニーの1,139億円をも上回る高水準です。

3.  経常利益率は営業利益率とほぼ同等の5.5%です。営業外費用の「その他」(個別の勘定の合計であって、特定の勘定が多いわけではない)が若干多いため、経常利益が営業利益を下回っています。一方、支払利息と受取利息の差は数億円に過ぎず、財務体質の良さがPLからも読み取れます。支払利息の50億円弱も、シャープの1,500億円を超える営業利益からすれば、わずか30分の1の水準に過ぎません。

4.  2年連続して100億円を超える固定資産売廃却損を計上しているのが目を引きます。古い設備の売却や廃棄を行いながら、積極的に設備投資を進めている裏づけとも取れます。ただし、100億円超はシャープにとっても決して小さな額ではないので、今後の特別損失の動向にも注目したいところです。

5.  これらの結果実現したのが売上高純利益率3.0%です。決して大きな数値には見えないでしょうが、これが医薬品業界を除いた日本の製造業のざっくりとした平均値です。海外企業と比べても、この差は歴然としたもので、勝ち組と言われるシャープや松下電器であっても、収益性の向上が今後の大命題であることが分かります。

 

貸借対照表(BS)

1.  シャープの総資産は2兆3千億円なので、売上高の2兆5千億円とほぼ同じ規模です。流動資産と固定資産を比較すると、意外にも流動資産が多いことが分かります。流動資産でもっとも多いのは総資産の16.9%を占める売上債権(受取手形及び売掛金)です。ただし、売上高の約60日分なので、国内の製造業ではそれ程驚くような大きさではありません。電気機器業界の平均値でも70日を越えています。

2.  次に多いのは手元流動性です。現預金と有価証券の合計で4,000億円弱に達し、これは売上債権とほぼ同額で、売上高の60日弱を占めています。一般的には60日分もの現金をいったい何に使うのか? とも取れる水準ですが、拡大を続ける液晶や太陽電池事業のための設備投資や研究開発投資の原資として、今後の動向に注目しましょう。

3.  3,200億円を超える棚卸資産は、売上原価の60日分に達しています。この結果、「原材料⇒仕掛品⇒製造⇒販売⇒売上債権の回収」に、60日+60日=120日を要していることになります。これに対して、仕入債務(支払手形及び買掛金)は、売上原価の約90日に達しています。正味の運転資金は、120日-90日=30日に抑えており、運転資金効率の良い経営が垣間見えます。

4.  固定資産でもっとも多いのは有形固定資産、中でも1兆円を越える機械装置及び運搬具が目につきます。バランスシートからは直接分からないですが、シャープは2005年3月期に2,200億円規模の設備投資を行っています。同期の減価償却費が1,700億円程度だったので、単純に考えてもその差額となる500億円の有形固定資産が純投資として1年間で増加していることになります。

5.  株主資本比率は42%、D/Eレシオ(有利子負債/株主資本)は0.5倍を割っており、財務体質については、まったく問題の無い水準です。手元流動性の金額が有利子負債の金額を上回るため、シャープは実質無借金企業であると言えます。株主還元については、配当性向は31.5%で国内でもまずまずの水準ですが、自己株式取得は行っていません。現在は積極的な投資への資金確保を重視していることの裏づけとも取れます。

 

【今後の注目】

デジタル家電の勝ち組とされるシャープであっても、売上高営業利益率で5.9%、当期純利益率で3%に過ぎないことが分かりました。海外を見ると、サムスン電子の営業利益率は連結で14.3%、単体では20.9%に達しています。また、サムスン電子の当期純利益は、アジア企業ではトヨタ自動車に次いで100億ドル(1兆円)を超えており、売上高当期純利益率は連結で13.2%、単体で18.7%の高水準にあります。

この圧倒的な収益力の差は、将来における投資、人材確保、製品力の差に少なからず結びついていくはずです。勝ち組と言われるシャープであっても、それは国内での過当競争の中での勝ち組であって、グローバル競争での勝ち組とは言い切れません。現在の国内景気回復や、シャープの液晶での成功といった追い風が吹く間に、技術や収益性での磐石な将来の基盤を発展させることが望まれています。

シャープの決算短信を見ると、中長期的な経営戦略として、 『収益性、資金効率の観点から、重点経営指標としてROE、フリー・キャッシュ・フローを掲げ、その向上をめざすと共に、税引後営業利益から投下資本コストを差引いたPCC(プロフィット・アフター・キャピタル・コスト)の活用により各事業部門の投資回収を促進してまいります』 とあります。成長性、収益性、そして資本コストを意識した経営を語るのは理想的な経営目標の姿です。これら3つをいかにバランスよく保ち、グローバル競争での勝ち組としてシャープが激動の時代を切り抜けるのか、今後のシャープに注目しましょう。

 

 

シリーズ 財務諸表から見える企業

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