JAL(日本航空)


「財務諸表から見える企業」第13回目は、一連の安全上のトラブルによる顧客離れに加えて、外部要因である燃料価格の上昇などによって、業績が低空飛行を続ける日本航空(JAL)を見ていきます。

顧客離れによる収益減だけでなく、不採算路線が多いことや機体の老化・大型化、さらには組合問題など、複合する構造上の問題が指摘されるJALです。こうした様々な経営環境の悪化は、財務諸表上ではどのような姿となって現れているのでしょうか。

例によって、JALのイメージを、財務諸表上の言葉にすることから始めてみましょう。

  • 顧客離れによる収益減は、売上高の減少と同時に、営業利益の大幅な減少に結びついているはず。ANAと比べれば、その差は歴然なのではないだろうか?航空会社のような莫大な固定費を抱える業界では、収益が減少しても、そのまま固定費を減少させることは容易でない。よって、本業の利益を示す営業利益の段階で、上下のブレが激しいものとなる。低迷する業績からすれば、JALは赤字にまで陥っているのではないだろうか?
  • 燃料価格の上昇は、JAL固有ではなく航空業界全体、あるいは日本企業全体が直面する経営課題といえる。とは言っても、製造業の主たる変動費が原材料、小売業の主たる変動費が仕入商品であるならば、航空業界の主たる変動費は燃料と言える。JALにとってはどの程度のインパクトが実際に現れているのであろうか?また、組合問題が絶えず噴出するJALの人件費であるが、サービス業である以上、売上に対してかなりの比率を占めているのではないだろうか? 
  • JALが抱える課題には、本業の収益力が弱い(=営業赤字)ことに加えて、莫大な借金を抱えていることを耳にする。借金を抱えること自体が悪いのでないことは、第1回のトヨタ自動車で学んだが、JALの現在の収益力から比べると、もはや説明できないような規模の借金を抱え込んでいるのではないだろうか?
  • バランスシートで大きなウェイトを占めるのは有形固定資産に他ならない。おそらく総資産回転率(売上高/総資産)は、電力会社やガス会社に見られるように1倍を大きく下回る水準を示すのではないだろうか?特に、保有機体の総額が圧倒的に大きいのではないだろうか?他の資産で大きいと想定されるのは、代理店経由の販売が多いことから、売掛金が相応に存在するであろう?
  • 資金調達には大いに着目したい。借金の規模と満期/償還日、株主資本の規模とこれに占める利益剰余金の規模には、どういった特徴が見られるだろうか?JALの厳しい経営環境が如実に現れているだろうか?

2002年10月に株式移転によって、日本航空と日本エアシステムの純粋持株会社として、株式会社日本航空システムが設立されました。持株会社は、2004年6月に商号を株式会社日本航空に変更しています。ここでは、東京証券取引所一部に上場する当持株会社の2006年3月期の連結損益計算書(PL)と連結貸借対照表(BS)を見ていくことにします。

■連結損益計算書と連結貸借対照表

JAL 損益計算書JAL 貸借対照表
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損益計算書(PL)

1.  株式会社日本航空(JAL)の2006年3月期の売上高は2兆1,993億円、営業利益は268億円の赤字(売上高比▲1.2%)、経常利益は416億円の赤字(売上高比▲1.9%)、純利益は472億円の赤字(売上高比▲2.1%)となっています。持株会社設立以降の4年間の営業利益を見ても、105億円⇒▲676億円⇒561億円、そして本年度の▲268億円と、上下幅1千億円超に及ぶ激しい本業からの利益のブレが発生していることが分かります。但し、同期間の全日本空輸(ANA)の営業利益は、▲25億円⇒343億円⇒777億円⇒888億円と確実な右肩上がりを示しています(下グラフ参照)。「航空会社=利益は上下にブレる」と結論付けるのは尚早で、各社固有の事情が内包していることが分かります。

JALとANAの営業利益

2.  売上高2兆1,993億円は前年度比で3.3%の成長に相当します。航空運送事業セグメントだけで見ても売上高は前年から316億円増加し、これは同1.9%の成長に相当します。一連の安全上のトラブルで顧客数が大きく減少したはずなのに、なぜ売上高は成長したのでしょうか。当然ながら売上高は「乗客(貨物)数 × 単価 × 各セグメント(国際、国内、貨物)」の算式で求まります。そこで、各々にブレークダウンして前年度(2005年3月期)と比べると、以下のようになります。

JAL 売上構成

表より、売上高の成長は、国際旅客と国際貨物の、燃料価格の上昇に伴う単価上昇によって、主に実現していることが分かります。有償旅客数や有償貨物トンが軒並み前年度比で減少していることが、顧客のJAL離れを端的に示していると言えるでしょう。さらには、国内旅客では、単価の上昇ができないほどに、顧客離れが影響していたことを示しています。ANAの2006年3月期でこれら数値を確認すると(本稿上では表記なし)、すべて100%を超えています。両社の数値を足すと、どれもが概ね200%となる事実を見れば、市場全体が大きく成長・減少したのではなく、JALからANAに顧客が移行していったとすることが妥当でしょう。

3.  JALの航空運送事業セグメントにおける営業費用の内訳は、以下のようになっています。

営業費用内訳

変動費・固定費の区分は著者がざっくり見極めて挿入したものですが、売上高の21.8%を占める燃料費を除けば、大部分の費用が固定費に相当するものであることが分かります。売上高が僅か1.9%上昇する中で、その燃料費が30.5%も増加した事実は、航空業界がいかに外部のコントロール不可な要因に左右されやすいかを示しています。顧客がどんなに少なかろうとも、決められた路線に飛行機を飛ばさなくてはいけない航空業界では、燃料費すら固定費と考えた方が、現実的ともとれます。最大の費用であり、かつ自社でのコントロールが難しい燃料費には、値上げによる対応と、機材のダウンサイジングによる燃費の効率化、さらには不採算路線からの撤退などによって、JALはその削減を目指すようです。

4.  燃料費に次ぐ費用としては、売上高の18.2%を占める人件費と航空機関連の費用(減価償却費とリース料を合わせて1,797億円、売上比10.3%)が挙げられます。前者については、一般社員の賃金一律10%削減や人員削減で臨むようです。後者については、平均機体年齢がANAに対して2年進んでいる(JALの11.6年に対してANAは9.5年)機材の更新を、中小型機を中心とした新機材の導入による機材競争力向上で対処するようです。これは前述の燃費効率の向上にもつながる施策です。

5.  PL上では支払利息が218億円に達し、これは営業赤字268億円にも匹敵する大きな金額であることが確認できます。現在のJALは、本業赤字と過剰借金という双子の経営課題を抱えた状況にあり、直近ではルノー出資前の日産自動車や、産業再生機構行き直前のダイエー&カネボウに類似した状況にあることが分かります。本業の収益性の回復のみならず、借金の返済を進めていかなくてはいけない、非常に苦しい経営状況です。3社のすべてが実質的には自力再建を成し得なかった訳ですが、JALの場合は現在の苦境をどのように克服していくのでしょうか。 

6.  事業セグメント情報を見ると、全社売上高の6割強を占める航空運送事業のみでの営業赤字は、実に434億円に及んでいることが分かります。この赤字を、航空運送関連事業の黒字58億円、カード・リース事業の黒字43億円、その他事業(ホテル・リゾート事業及び商事・流通その他)の黒字61億円によって埋め合わせ、全社営業赤字を268億円まで減少させている構図が分かります。もっとも後者3事業ともにセグメント間の内部売上高が大きいことから、航空運送事業あっての事業とも言えます。言わば独立採算で黒字化している事業は無く、航空運送事業の再建無くしてJALの復活無しということが、改めて確認できます。

JAL セグメント
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貸借対照表(BS)

1.  JALの総資産は売上高とほぼ同一となる2兆1,612億円であり、この結果総資産回転率(売上高/総資産)は1.02倍と計算されます。航空機という莫大な有形固定資産を保有する航空業界からすると、当比率が1倍を超えていることは意外感を与えます。事業セグメントごとに見ると、確かに航空運送事業では同比率が0.89倍となっており1倍を下回るものの、売上構成比の大きい航空運送関連事業(旅客貨物の取扱い、機内食調整、航空機及び地上機材等の整備、給油等)や、旅行企画販売業では同比率が高い水準を示している(大きな資産を抱えない事業)ことが背景にあります。

2.  また、航空業界では多くの航空機を資産計上されないリース(所有権が借主に移転すると認められるもの以外のファイナンス・リース取引)で所有することで、資産のオフバランス化(バランスシート上の計上されない)を図っています。JALが所有する合計278機体のうち、実に32.7%に相当する91機はリース機体です。これは、取得価額ベースで5,647億円に相当する金額のオフバランス化に相当します。2006年3月期末の減価償却後簿価ベースに換算すると3,837億円に相当し、総資産2兆1,612億円の17.8%に相当しています。

3.  航空機の7910億円を初めとする計1兆1,527億円の有形固定資産を除くと、次に大きな金額は2,374億円の受取手形及び営業未収入金であることが分かります。これは売上高の約40日分に相当するため、全社平均で概ね1ヶ月の回収サイトを持っていることが分かります。電話やインターネットによるJAL直販で、即時現金回収できる部分と、代理店経由で回収に時間を要する部分の平均値ではありますが、約1ヶ月での回収は妥当な長さと言えるでしょう。流動負債の営業未払金2,378億円と、ぴったり同一の数値となっていることから、運転資金上の資金繰りは、貸借をバランスさせることで、上手に抑え込んでいると評価できます。 

4.  莫大な設備投資を、JALはどのような資金調達によって実現しているのでしょうか。バランスシートの調達サイドを見ると、株主資本比率は6.9%と計算され、非常に脆弱な財務体質にあること、必要な資金は有利子負債に大きく偏重して調達していることが浮き彫りになります。資本金1,000億円は2002年10月に持株会社が設立された時のままの状態です。言い換えればそれ以降続いている業績不振時も、増資は行わずあくまで有利子負債で企業運営してきたことが分かります。利益剰余金は901億円の繰越損失を示しており、過去の歴史がマイナスという、歴史ある企業としては屈辱ともいえる状態を示しています。株式会社日本航空単体ベースでは、この繰越損失は1,323億円に及んでいますが、すでにJALは2006年5月10日の決算発表時に、資本準備金の取り崩しとその他資本剰余金によって、1,323億円全額の繰越損失一掃を行うことを発表しています。実はJALは1998年3月期にも1,500億円の繰越損失一掃を行っており、正に歴史は繰り返すことになります。負の歴史の抹消による前向きな経営体制による再出発とも言えますが、見方を変えれば自力で繰越損失を解消できないことを、自ら表明したことになります。 

5.  JALの有利子負債は、長短借入社債をあわせて1兆2,364億円に及んでいます。支払い金利が仮に平均2%とすれば、支払利息は247億円となりますが、これは先にPL上で見た当社の支払利息218億円とほぼ同一水準であることが確認できます。これ以外にも、リース債務(オフバランスとなっているリース資産に対応する債務)が4,202億円、退職給付債務の未認識分が2,731億円あり、実質的な有利子負債は2兆円近い金額となります。売上高とほぼ匹敵する実質的な有利子負債の金額、支払利息以上に計上している本業の営業赤字額、有利子負債の10%にも満たない僅少な株主資本1,480億円、一連の安全上のトラブルでブランド失墜による顧客離れが止まらない現状・・・・。どのような角度から2兆円という有利子負債をとらえても、JALにとって、それがいかに途方も無い金額であるかを感じることができます。

 

【今後の注目】

為替や燃料価格の条件次第ではあるものの、JALは本2007年3月期に営業黒字170億円、経常黒字5億円、当期純利益30億円とする、全利益の黒字転換を計画しています。決算発表に先立つ2006年3月に発表された2006-2010年度中期経営計画では、2010年度末の着地点として、営業利益1,300億円、経常利益1,070億円、純利益550億円、ROE18.3%、有利子負債(リース債務と未認識債務を含む)1兆3,840億円とする、どれを見ても積極果敢と取れる具体的な数値を目標として打ち出しています。上記で解説した繰越損失一層も、こうした積極果敢な数値の達成を前提とした先行実施であるともとれます。

しかし、市場のJALに対する評価は相変わらず厳しいようで、株価も低迷を続けています。信用回復による収益の改善と、機材更新や雇用・組合などの構造問題の改革には、もう少し時間がかかるのではないかとの見方が大勢です。

また、2004年に発行した1,000億円規模の2011年満期ユーロ円建保証付転換社債型新株予約権付社債(CB)が、株価の低迷によって2007年3月に期限前償還される可能性が高まっています(転換価格440円に対して、2006年6月12日の終値は297円)。そこに至るまでの四半期や中間期決算で収益構造の回復が示せれば、新たな有利子負債での借り換えも可能でしょうが、そうでない場合、増資による資金調達手当てといった選択肢が浮上してくるでしょう。

本来であれば、銀行への支払利息も払えない企業が、仕方なく増資で資金調達するということは、上場企業として理論的にはあってはならないことです。しかし、ここが日本の資本市場が歪んだ一例であるとも言えますが、これが実現すれば増資に応じるであろう金融機関による、実質的なJALの救済策となるでしょう。資産バブルの金余り時代に起きたような、銀行による不良債権や不採算救済投資が、再び加速する懸念もあります。

業界全体が低迷するのであれば致し方ないところですが、ANAとJALでの収益力や株価において顕著な差が生まれ、これが拡大しているのが現状です。株主重視の経営が声高に叫ばれる日本において、JAL自身が自らの企業努力によって再建を果たすことができるのか、できなかった場合、資本市場は合理的な判断を下しこれを実行できるのか、注目されます。

 企業側から見ても、株主側から見ても、JALの再建は、昨今の株主重視経営の浸透や、資本市場主義に基づく経営を日本に問う、格好の事例と言えるかもしれません。再び金余り時代と言われる昨今、そうした視点でJALの収益力と有利子負債の今後の動向を見ていくと、現在の日本の企業経営や金融機関の姿勢の実態をつかむことも可能でしょう。

 

 

シリーズ 財務諸表から見える企業

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