目標利益率10%!本業消失危機でも会計数字がブレない富士フイルム


目標利益率10%!本業消失危機でも会計数字がブレない富士フイルム

あなたの会社は、主力製品が突然無くなっても、存続できますか?

自分の会社の売上や利益の大部分を占める事業の市場規模が、突如ピークのわずか10分の1になってしまったとしたら…

そんなこと起こり得ない、と思うかもしれませんが、大手写真フィルムメーカーだった富士フイルムに、実際に起きた話です。

結果的に、同社はその危機を乗り越えることができました。

その理由は、長期的に視点に立ったブレない戦略と、利益を重視する経営姿勢にあるのではないかと思っています。

 

富士フイルム 古森会長が直面した危機

「車が売れなくなった自動車メーカーはどうなるのか。」

「鉄が売れなくなった鉄鋼メーカーはどうすればいいのか。」

「我々は、まさにそうした自体――、本業消失の危機に直面していた。」

これは富士フイルムホールディングス会長兼CEO、古森重隆氏の近著「魂の経営」(東洋経済新報社)の中で謳われている言葉です。

 

それは競合が増えたとか、海外から安価な製品が入ってきたとか、そういうレベルではありません。

主力製品そのものが世の中から突然に消え去ってしまったのです。

多くの会社はなすすべなく呆然とし、何とか打開しようともがきながらも、冷静さを取り戻して次の一手にようやく着手する頃には、もう手遅れになっているかもしれません。

実際に、富士フイルムホールディングスの長年のライバルであり、同社が常に追いつき、追い越せと見上げ続けていた米イーストマン・コダック社は、2012年1月に会社更生法を適用して経営破たんしました。

コダックの経営破たんへの変遷は、私が以前執筆した記事をご参照ください。

ダイヤモンドオンライン 「「経営破たんする企業」を知るために「Kodak」の決算書を読んでみる」

 

製品がブレても、会計数値のブレない富士フイルム

こうした事態にあっては、痛みを伴う人員カット、工場閉鎖、事業売却、在庫処分等などが続き、さぞ会計上の数値は悪化の一途をたどることだろうと想像するのが普通です。過去からの蓄えや、新たなスポンサーが無ければ、そうした痛みを吸収しきれずに、多くの会社は破たんに至ります。

ところがこの富士フイルム、過去15年ほどを振り返っても会計上の数値があまりブレていないのです。

営業赤字に陥ったのは、銀塩フィルム市場が急速に縮小した2000年初頭ではなく、リーマンショックの翌年度に相当する2009年度の一度限りです。

売上高総利益率は38%~45%と、メーカーとして比較的高い水準で、かつ安定推移しています。

自己資本比率もおおよそ60%前後の一貫した高水準です。

主力製品市場が突如ピークの1割になってしまったという事実と、会計数値がほとんどぶれていないという事実が同時に成立していることに、たいへん興味を引かれる企業です。

 

長期的視点に立った経営が勝ち、短期的成果を求めた経営が負けた事例

その裏側では血のにじむような経営陣や社員の努力があったことは言うまでもありません。数多くの構造改革のための英断や、新事業領域を開拓するためのM&Aも活発に行われてきました。

一貫して言えることは、長期的な展望に立った経営、資金調達、技術開発、事業展開が富士フイルムでは行われていたこと。

それが出来ていなかったコダックは破たんしたということです。

これは、アメリカ的な経営(技術開発や株主還元において、短期的成果がより強く要求される)が負けて、日本的な経営(技術開発や株主還元において、より長期的視点を重視)が勝った1つのケースと言えるのではないでしょうか。

 

古森会長が重視する経営指標(KPI)

それを実現された古森会長の言葉だからこそ、説得力を持って聞くことのできる重視する経営指標です。

「企業の最終目的は、顧客によい製品、優れた価値を提供し続けることだ。明日への投資のために最低でも10%の利益率は必要だ」

(「週刊東洋経済」2010年12月18日号)

技術重視、顧客重視することを、時おり利益軽視と同義にとらえる経営者が見られます。

企業にとって技術や顧客を重視することは、利益の優先順位を下げるが必然のような表現です。

 

ところが、古森会長はそれを否定しています。

利益がなければ投資ができない。10%程度の利益がなければ顧客が満足する価値を提供できないということです。

 

もうすぐ終了する2013年度の富士フイルムの予測売上高営業利益率は5.8%。

古森会長の言う10%には4.2%も欠けています。連結予測売上高が2.4兆円なので、

金額にすればざっと1,000億円強(2.4兆円×4.2%)の開きです。

 

古森会長の「魂の経営」は、これからが本当の正念場になっていくということかもしれません。


著者

大津 広一

株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント

早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授
多摩大学大学院ビジネススクール客員教授
慶應義塾大学理工学部管理工学科非常勤講師