ソフトバンクIR動画から読み解くEBITDA重視の冷静な経営戦略


ソフトバンクの孫社長が、自社の経営環境を説明するために用いている経営指標、

それがEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)です。

EBITDAは償却前の営業利益。簡易には営業利益に減価償却費を足し戻して計算します。

 

なぜ、孫社長はこの指標を重視しているのでしょうか。

その理由を、ソフトバンクのIRサイトに掲載されている決算説明会のプレゼン動画から読み解いてみましょう。

 

孫正義ソフトバンク社長のプレゼンを見る

数ある経営者の中でも、話し方は穏やかでありながら、メッセージの強さでは群を抜いているのは、やはり孫正義ソフトバンク社長でしょう。

第3四半期というある種中途半端な決算発表には、社長が登場しない企業も多い中で、孫社長自らが決算説明会の先陣を切ってプレゼンを行い、かつその動画をソフトバンクのIRサイト上に開示しています(2014年2月12日)。

ソフトバンク 2014年3月期 第3四半期 決算説明会 プレゼン動画

 

ソフトバンク孫社長が語るEBITDA

プレゼンの中で孫社長は、ソフトバンクの経営環境を説明するために何度もこのEBITDAという経営指標を使っています。

孫社長がプレゼンの中で語ったことばを、そのまま転記してみることにします。

もちろん借り入れは増えました。ただボーダフォン・ジャパンを買収したときには、EBITDAに対して6.2倍の借り入れを行ったわけですけども、今回は約半分の3.5倍で済んでいるということであります。もちろんここから前回のように急速にこの指数を改善していきたいというふうに思っている訳でございます。

つまり借り入れというのは絶対額が大事なんではなくて、その借り入れが仮に1億円であったとしても、10億円であったとしても、それを返済する財源が無ければ意味がないということになりますね。つまり返済するキャッシュフロー、返済するEBITDA、これに対して何倍までの借り入れが適切な借入か、しかもそれが伸び行くEBITDAであれば、より指数の改善は早くやってくるということで、我々は常にそのバランスを見ながら買収だとか事業の運営を行っているというふうに考えております。

(ソフトバンク 2014年3月期 第3四半期 決算説明会 動画より)

EBITDAという一見小難しい指標を使いながら、ソフトバンクへの懸念(借入が多い)と優位性(稼ぎ力が伴っている)について、実に分かりやすく語っている下りだと思います。

要は、「稼ぐ力の身の丈に見合った借り入れだったら、どんな巨額の借り入れだって問題ないよね」ということです。言われてみれば当然のことなのですが、無借金経営がベスト、借り入れは出来るだけ少ない方が良い、と考える経営者も意外と多いものです。

ここで、借入額に対して、EBITDAではなくFCFと比べるのも一案ですが、借り入れを完済するのが企業経営の目的ではないので、継続企業(ゴーイング・コンサーン)としてEBITDAに見合っているかを測る方が現実的な選択肢です。我々個人の話であれば、早く住宅ローンを完済したい、と思うならFCFに相当する税後ネットCFを選択すべきでしょう。

 

EBITDAはソフトバンクの経営戦略を適切に表す指標

冒頭にも述べましたが、EBITDAは簡易には営業利益に減価償却費を足し戻した償却前の営業利益です。

ソフトバンクのような通信会社には当然ながら巨額の減価償却費が発生します。

ソフトバンクは2013年度から国際会計基準(IFRS)に移行するためその影響は無くなりますが、大型M&Aを行う企業にとっての「のれん」の償却も同様です。

 

ソフトバンクの借り入れが多いのは通信業界で設備投資が嵩むことですし、また大型M&Aを繰り返してきたためです。そしてその借り入れを返す原資もまた、設備投資を行う通信事業であり、M&Aによって獲得した企業たちがもたらすキャッシュフローなわけです。

こうした点からも、孫社長の言う「返済する財源が無ければ意味がない」を測るためには、借り入れを営業利益や純利益で割るのではなく、(減価償却費を足し戻すことでキャッシュフローとなる)EBITDAで割るのが適正ということなのです。

孫社長がもしも経常利益率や借り入れの絶対額を重視する経営者であれば、ここまでのソフトバンクの成長は無かったでしょう。一方で、EBITDAに対する借り入れを常に重視してきた孫社長は、決して暴走する方ではなく、常に沈着冷静かつ緻密な数値に対する徹底さも感じます。

経営戦略が経営指標(KPI)を選択する。孫社長の穏やかでかつ力強い語り口調の裏には、負け戦はしないための冷静な数値の読みがあるのでしょう。


著者

大津 広一

株式会社オオツ・インターナショナル代表
米国公認会計士、経営コンサルタント

早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授
多摩大学大学院ビジネススクール客員教授
慶應義塾大学理工学部管理工学科非常勤講師