多摩大学と早稲田大学では、ビジネススクールの教員として、選択科目『企業分析と経営指標[KPI] 』を長年にわたり担当しています。平日夜間や土曜日のクラスが中心なので、自ずと自費で履修している社会人学生が大多数です。

19時から22時に行われる夜間クラスは、仕事を終えた後の非常勤教員にとって決して負担の軽いものではありません。それでも、毎日のように夜間ビジネススクールに通い、熱心に学ぶ学生を見ていると、20年超前に米国留学でMBAを取得した自分を思い起こし、私自身も良い刺激をもらいながら教鞭を執っているのが実情です。

簡単にシラバスを紹介すると、

講義目的(学修の到達目標)

企業経営者としてはもちろん、経営企画担当者、IR担当者、経理・財務部門担当者にとって必須となる、経営戦略に合致した経営指標(KPI)を選別し、理論に適合した目標水準を設定した上で、これを社内外に対して的確にコミュニケーションすることのできるスキル修得を目指します。

講義要旨

第1講は、企業価値を定義し、経営指標は中長期的に企業価値を高めるための代替手段であることを明確にします。第2講から第6講は、10の経営指標(KPI)を取り挙げて、①その指標を目標に掲げる意義、②目指すべき水準に関する理論的な根拠の明確化、③指標を高めるための具体的な施策、④経営指標を戦略的に活用する先進企業のケーススタディについて、講義と討議を行います。第7講は、グループまたは個人ワークによって選定した企業の経営戦略と目指すべき経営指標(KPI)について、レポート作成、プレゼンテーションを実施します。第8講は、期末試験を行います。

1講が90分なので、全15講を22.5時間かけて実施するわけです。昨今のコーポレートガバナンス・コードの制定と改訂に伴い、上場・公開企業には、資本コストを的確に把握したうえで、経営計画を具体的に株主に分かりやすく説明することが求められています。そうした背景もあってか、よりリアルなニーズを感じながら、社会人学生とのディスカッションができる環境を感じています。

今日はイメージを持っていただくために、今年度実施した期末試験の設問だけ、ここでshareしてみることにしましょう。本クラスでは、計算問題や、細かな言葉、ルールを問うようなことは一切行わないようにしています。それらは書籍を見れば書いてあること。実務家に問われているのは、記憶したり計算したりすることではなく、どう使いこなしていくかです。

各KPIを目標に掲げる意義は何であるのか、自社を含む企業が具体的なKPIを掲げるとすれば、どういったプロセスを経て明確化すべきなのか。そしてターゲットの水準をいかにして設定していくのか。

こうしたことをクラスでは伝えていくようにしていますし、期末試験もそうした内容を問う設問を意識して作成しています。

 

我こそは!、と思う方。ぜひ挑戦してみてください!

ちなみにもちろん、試験は「持ち込み不可」です。

 

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2019年度 『企業分析と経営指標[KPI]』 期末試験

 

  1. ROAでは評価できないものの、ROICでは評価することが可能となる、企業活動における自社の優位性の例を挙げてください。なおここでは、「全社ベース or 事業別に計算が可能」といった算出範囲の違いの話ではなく、算定式の中身そのものに焦点を充てて説明してください。
  2. ソフトバンクグループはセグメント情報の中でEBITDAを示す希な企業ですが、同社のEBITDAを見ることで判明する個別セグメントの優位性とその背景について、簡潔に説明してください。
  3. 年平均成長率(CAGR)を示す指標では、一般に一桁半ば~後半を示す企業が多々見られます。その理由として考えられる背景を、「資本コスト」という用語を用いて解説してください。
  4. 有利子負債の妥当性を語る経営指標として、昨今はDEレシオよりも、EBITDAを用いた指標を使用するケースが増えてきています。後者が前者に比べて優れている点と、注意を要する点をそれぞれ1つずつ挙げてください。
  5. クラスの中で紹介した、P&Gや3Mが採用している経営指標「FCFプロダクティビティ」について、計算式とその意義について簡潔に解説してください。米国の優良企業が本指標を重要視するのに対して、日本国内では今日まであまり聞くことの無い背景はどこにあると考えますか。仮説ベースで解答してください。